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Concert Report


オーケストラ コンサート Cプログラム
子どものための音楽会 特別篇




2018 セイジ・オザワ 松本フェスティバル
オーケストラ コンサート Bプログラム


会場:キッセイ文化ホール
2018年8月31日



あまりにも美しく、とてつもなくエネルギッシュ
生命感あふれるオーケストラサウンドが生んだ奇跡の瞬間







オーケストラ コンサート Bプログラムは、サイトウ・キネン・オーケストラ(以下、SKO)と14年ぶりの共演となる秋山知慶を指揮者に迎え、秋山が得意とするフランス人作曲家の楽曲で構成されていた。“全曲フランスもの”ということで、非常に興味がそそられた。


オープニングはイベールの「祝典序曲」。冒頭、ヴァイオリンがさざ波のようなテーマを奏で、ベースラインが深い音色で響く。まるでオーケストラに生命がふきこまれ動き出すようだ。透明感のあるヴァイオリンからコントラバスまで、音の層が見えるようなアンサンブルが素晴らしい。ゆったりとした中間部では木管が柔らかなハーモニーを聴かせ、優しいメロディーを奏でる。ラストに向かってオーケストラはより躍動し、エネルギーを増していった。




「祝典序曲」のあとは「牧神の午後への前奏曲」「ボレロ」と続く。(個人的なことで申し訳ないが)バレエファンの筆者としては「SKOがこの曲をどう演奏してくれるのか?」、大いに期待していたのだが、その演奏は言葉で言い表すのが難しいほど素晴らしいものだった。


「牧神の午後への前奏曲」。フルートが柔らかな音色で冒頭のメロディーを奏でる。抑揚豊かな管と、美しい音をちりばめてそれを彩るハープ、アクセントをつけながら美しいベールで全てを包み込む弦、今まで聴いたなかで最も美しい「牧神」のプロローグだ。次第にボリュームを増すオーケストラがゆったりと抑揚豊かに歌い、色彩豊かなハーモニーを聴かせる。まるで牧神とニンフが戯れる姿が目にうかぶよう。演奏が終わったあと、会場全体が深い感動に包まれ、嵐のような拍手が巻き起こった。


よく「フランス楽曲はフランス人でなけりゃ・・」などと言われ、それはおそらく華やかさやロマンチックな繊細さ、音色の色彩感や透明感など、感性の部分で他国の演奏家では難しい、という意味だと思うのだが、この日の「牧神」はそれらを表現して余りある演奏だった。


そして「ボレロ」。最高潮に達するエンディングを期待しながら、そこに向かってどのように展開していくのか、どんなドラマを演じてくれるのか、そう思いながら第一音を待つ。



冒頭、スネアドラムが刻むテンポが絶妙。フルートは美しく繊細なメロディーを奏でる。心地よく響く低音の上で、さまざまな楽器が、それぞれニュアンスの違う表情を見せてくれる。すべての音が有機的に調和している。ドキドキする高揚感のなか、ラストに向かって音量を増し、強烈な音の渦に飲み込まれていく。その迫力、会場全体がうねるようなサウンドは凄まじく、熱い塊を飲み込んだような興奮に包まれてフィニッシュを迎えた。まさに究極のボレロ。熱狂的な拍手がいつまでも続いていた。



第2部のプログラムはサン=サーンスの交響曲 第3番「オルガン付き」。 サン=サーンスの最高傑作と言われる壮大なスケールの曲だ。

第一楽章の冒頭、弦が不安をかきたてるようなテーマを奏で、リズムを刻む低音がゆったりとしたグルーヴ感をだす。クラシックでグルーヴ感という言葉を使うのは珍しいのだが、この時はゆったりと刻む低音が紡ぎだすリズムを「グルーヴ感」としか表現できないように感じた。軽妙なリズムを刻みながら管が奏でるハーモニーはそのアンサンブルが見事。抒情的なオーケストラサウンドがドラマティックに聴く者に迫る。

指揮者を静と動で表現するなら、この日の秋山は、まさに静の指揮者という印象で、ポイントをおさえながらもオーケストラに自由な空間をあたえて、生命力あふれるこのオーケストラの力量を存分に発揮させているように感じた。


中間部、静けさのなかでオルガンのやわらかなハーモニーが広がり、優しさと心地よさを醸し出す。オルガンとストリングスのアンサンブルを堪能した。不安感そそる冒頭のテーマとほっとするような第2テーマとの対比が見事だ。


二楽章はスピーディーでダイナミック、パワフルに展開した。激しく疾走感があるテーマが迫り、ピアノがスピーディーな音階を奏でる。アップテンポのなかで滔々と流れる流麗なメロディーが印象的。

そして音が静まり返ったなかで満を持したように、たっぷりと鳴り響くオルガン。音量を増したオルガンとオーケストラの競演は迫力満点で聴く者を圧倒する。

緩急を繰り返しながら、エンディングに向けて全体の凝縮感が増し、ボルテージが上がったところでシンバルとティンパニーが響き渡る。エネルギッシュな展開とともにドラマティックなエンディングを迎えた。10分以上なりやまない歓喜の拍手に包まれ、観客の表情は演奏者を心から称える気持ち、そして素晴らしい演奏に対する感謝で満ちていた。


クラシック演奏会に足を運んでいると、時折、すばらしい瞬間に出会うことがある。ソロ、室内楽、オーケストラ問わず、演奏が深い感動と共感を呼び、オーディエンスと一体化するとき、言葉では表せないような感動を覚え、その場にいられた幸運に感謝したくなる。この日の演奏は正にそうで、このような体験をSKOでできたことは本当に幸運だったと思う。


これまでSKOという見事なオーケストラが、小澤征爾によってさらにエネルギーを増し、生き生きと、命を吹き込まれていたとすれば、今回は残念ながら彼が不在となったことで、卓越したミュージシャンたちの力がより強固に結集し、オーケストラというものが一つの生き物のようになって自由自在に音楽を表現している、そんな感覚を覚えた一日だった。



<プログラム>

第1部
イベール:祝典序曲
ドビュッシー:牧神の午後への前奏曲
ラヴェル:ボレロ

第2部
サン=サーンス:交響曲第3番 ハ短調 Op. 78「オルガン付き」

演奏
サイトウ・キネン・オーケストラ
オーケストラ出演者一覧

指揮 秋山 和慶


レポート:Asako Matsuzaka
撮影: Michiharu Okubo, Takeshi Yamada


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