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Live Report
第17回 東京JAZZ - the HALL -


17th TOKYO Jazz FESTIVAL Official Site


昨年に続き、渋谷を拠点に開催された第17回 東京JAZZ。
今年は「国境を越えて、 世代を超えて」をテーマにジャズ界のレジェンドから最先端アーティストまで
幅広く活動するトップミュージシャンたちが集結した。


9/1 daytime -SOUNDSCAPE(R+R=NOW、コーネリアス)



Sep. 1 (Sat) Evening

JAZZ ODYSSEY


ティグラン・ハマシアン・トリオ
ハービー・ハンコック and His Band
featuring ジェームス・ジーナス、トレヴァー・ローレンス Jr.、リオーネル・ルエケ & テラス・マーティン




Tigran Hamasyan Trio / ティグラン・ハマシアン・トリオ





アルメニア出身のティグラン・ハマシアンは2006年にワシントンD.C.で開催されたセロニアス・モンク・ジャズ協会主催の国際ピアノ・コンペティションで優勝し、一気に世界の注目を集めた。それから10年以上経過しているのですでに中堅どころだが、ジャズ・ピアノに対する常に革新的なアプローチはいつ聴いても新鮮な驚きに満ちている。

オリエンタル音階を使ったミステリアスなリフが印象的な「To Love」を静かにピアノで奏で始めるティグラン・ハマシアン。続けて「To Negate」に流れてゆき、ドラマーのアーサー・ナーテクは手でスネアを叩いている。ティグラン・ハマシアンのスキャット・ボーカルが加わり、やがてリズムが加速して早くも熱を帯びた展開となる。タイトなリズムを支えるサム・ミナイエがベースを指弾きとピック弾きとを使い分けながら緩急自在にドライブする。

続く「The Grid ~ Out of the Grid」は速いリフで始まり、バンドのタイトさを際立たせる。3人の動きがぴたりとあっていることも観ていて小気味良い。エフェクターでモジュレーションをかけたベースがエレクトロニックなテイストを出しつつもピアノとドラムスの音色を濁らせないのはさすがだ。 次の「The Apple Orchard in Saghmosavanq」では穏やかで美しいメロディーのピアノにスキャット・ボーカルが加わる。オクターブ・ピッチ・エフェクトを使ったベース・ソロも秀逸だ。ドラムスはシンプルなセットながら豊かな音色を叩き出し、次第に激しさを増す展開が興奮を呼ぶ。

「Entertain Me」と紹介された次の曲は速いリフと細かいリズムの切り替えしが文字通り「Entertaining」だ。ピアノ・トリオでヘヴィ・メタルを演奏したらこうなるとでも言うべき斬新さだ。

続く「Leninagone」はグラス・ハープの音で始まる導入部がループしてゆく上にピアノが、そしてエフェクターで木管楽器のような音を出しているベースが加わり、ティグラン・ハマシアンの口笛と絡み合うアンサンブルが美しい。シンバル・ワーク中心のドラムスもハーモニーに加わるかのように溶け込んでゆく、悲しげなバラードだ。

最後に再びアップ・テンポな「Double-faced」。細かく刻むドラムスとピアノ、ベース、ティグラン・ハマシアンのスキャット・ボーカルが変幻自在に絡みあう。導入部でピアノとベースが奏でるモチーフはイタリアのバンドGoblin(ゴブリン)の曲「Suspiria」を想起させるダークな印象のものだが、やがて曲は盛り上がりを見せ、白熱のインタープレイが繰り広げられる圧巻のステージの最後を飾った。


Members:
ティグラン・ハマシアン(P, Key)
サム・ミナイエ(B)
アーサー・ナーテク(D)

SET LIST
1. To Love
2. To Negate
3. The Grid
4. Out of the Grid
5. The Apple Orchard in Saghmosavanq
6. Entertain Me
7. Leninagone
8. Double-faced



Herbie Hancock and His Band / ハービー・ハンコック and His Band
featuring ジェームス・ジーナス、トレヴァー・ローレンス Jr.、
リオーネル・ルエケ & テラス・マーティン







東京JAZZには欠かせない立役者ハービー・ハンコックだが、今回は自ら「Expect the unexpected(想定外を想定してくれ)」と語ったステージで、自身とバンドのポテンシャルを最大限に引き出してくれた。

一曲目「Overture」はアブストラクトなサウンドスケープに導かれて始まり、ハービー・ハンコックのピアノと、R+R=NOWでも卓越した腕前を見せてくれたテラス・マーティンのサックスのユニゾンがイントロを奏でると、トレヴァー・ローレンス・ジュニアのドラムスの刻むリズムにジェイムス・ジーナスのベースが乗ってハービー・ハンコックらしいフュージョン大会が始まる。

サックスのソロをたっぷりとフィーチャーし、続いてエレクトリック & アコースティック・ピアノのソロへと流れてゆく。やがてソロがリオーネル・ルエケに渡ると、西アフリカのベナン出身の彼らしいリズムとメロディーを、エフェクターを駆使したギターとボーカルで披露する。そこへフル・バンドが加わる様は痛快だ。そしてサックス、ピアノとソロを回し、エンディングへなだれ込む。

長めのメンバー紹介に続いてHead Hunterの曲「Actual Proof」。ドラムスとベースの強力なリズムに乗って各パートが自在に動き回る様は実に小気味良い。

続く曲はテラス・マーティンがヴォコーダーの低域を使った音が面白いミッド・テンポの「Come Running to Me」。ハービー・ハンコックもヘッド・マイクをヴォコーダーにつないで加わる。リオーネル・ルエケのギター・シンセサイザーを使ったソロがフィーチャーされる。

次の曲「Secret Sauce」はリオーネル・ルエケのコーラス・エフェクトがかかったマイクでのボーカルから始まる。5人中3人がボーカル・エフェクトを使っているバンドというのも珍しい。続いてエフェクトなしのギター・ソロ。ベンチャーズ風のフレーズが出てきてコミカルな印象だが、リオーネル・ルエケの腕前を窺い知るには絶好の機会だ。短いサックスのリフを挟んでハービー・ハンコックのピアノとシンセサイザー・ソロ、そしてテラス・マーティンのソロはアンビエントなフレージングに始まり、Mini Moogシンセサイザーでアヴァンギャルドな音を繰り出し、そしてヴォコーダーでリフを作ったところにバンドが入ってハービー・ハンコックのシンセサイザーに繋ぎ、そしてサックスへ。

こういったソロの取り回しを支えるリズム隊の重厚さは聴いていて実に気持ちが良い。ハービー・ハンコックはショルダー・キーボードを持ち出してきて、今度はリオーネル・ルエケのギター・シンセサイザーと掛け合い。バックにテラス・マーティンがヴォコーダーとサックスでコーラスをつけると音の絡みが最高潮に達し、ドラムスのソロをフィーチャーしてエンディングへ全速力で突っ走る。まさに圧巻の演奏だ。

次の「Butterfly」ではハービー・ハンコックのピアノに呼応してバンドがリフを奏でる。そこでスペシャル・ゲストのロバート・グラスパーが登場し、ステージ・センターでエレクトリック・ピアノを弾きだす。ハービー・ハンコックのアコースティック・ピアノとのコンビネーションと各メンバーのフィルが都会的なスロー・バラードを彩る。ベテランと新進気鋭のデュオはスリリングだ。ここでもハービー・ハンコックはショルダー・キーボードを持ち出してロバート・グラスパーとのインタープレイに嬉々として興じている。このあたりから曲はスピードを上げ、そしてふたたびスローダウンしてクールなエンディングを演出してくれた。

ステージ・マネージャーが時間がないことを伝えに来ると、ハービー・ハンコックはしきりに腕時計を気にしながらバンド・メンバーと手短かに打ち合わせ、ショルダー・キーボードを肩にステージ・センターへ進み、サックスとの掛け合いを見せる。ハービー・ハンコックらしいアップテンポで痛快なファンキー・フュージョンの十八番「Chameleon」で圧巻のステージを締めくくってくれた。


Members:
ハービー・ハンコック(P)
ジェームス・ジーナス(B)
トレヴァー・ローレンス Jr.(G)
リオーネル・ルエケ(G)
テラス・マーティン(Key, Sax)

SET LIST
1. Overture
2. Actual Proof
3. Come Running to Me
4. Secret Sauce
5. Butterfly
6. Chameleon


レポート:Tatsurou Ueda

画像提供:第17回 東京JAZZ
撮影:中嶌 英雄、岡 利恵子
Spechal thanks to TEAM LIMITED.


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