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Concert Report




ベートーヴェン×ブッフビンダー
「オール・ベートーヴェン・プログラム」
ルドルフ・ブッフビンダー ピアノ・リサイタル


会場:東京オペラシティ
2019年9月23日



ファンタスティックでありながらエネルギッシュ、
変幻自在な「ブッフビンダー・ワールド」を心ゆくまで堪能





ルドルフ・ブッフビンダー ピアノ・リサイタルが東京オペラシティ コンサートホールで開催された。今回の来日ではコンチェルト(ベートーヴェン:ピアノ協奏曲第4番)の公演が数回あったが、ソナタを取り上げたのはこの日のみ。「悲愴」「ワルトシュタイン」 「熱情」と名曲が並んだプログラムに期待が高まった。

ブッフビンダーは世界各国で50回以上もベートーヴェン・ソナタの全曲演奏を行い、コンチェルトを含むレコーディング、また楽譜の研究も行っている。ベートーヴェン演奏において、その演奏スタイルは世界中から称賛されているが、それはアイデアにあふれ、高速で自由自在、いわゆるオーソドックスなベートーヴェンとは一線を画すものだ。

「悲愴」の冒頭では、どっしりとした重厚な和音ではなく響き豊かなハーモニーが広がる。脱力奏法の場合、より倍音の響きが豊かになり音色に深みが増すが、ブッフビンダーの奏法は見事の一言で完全にコントロールされた脱力奏法で弾いている。第一楽章ではゆっくりと静かにメロディーを綴った導入から、テーマに入ると高速テンポの中で左手のベースラインの強調やアクセントの変化などで繊細な表情を見せていったが、大きなうねりの中で聴かせるピアニッシモの美しさは秀逸。ナチュラルなメロディーが心地よく響いた第二楽章に続き、第三楽章では流麗な高速パッセージが会場を包む。第一楽章、第三楽章の、とどめなく疾走していく様からはベートーヴェンの悲愴や不安が感じられるようだった。

続く「ワルトシュタイン」も高速の中で大胆に展開。pppからfffまで、ハッするような緩急の変化をつけながら進んでいき、カデンツア、コーダとさらに速度を増していくのだが、どれほど速度が増しても一音一音の音色の美しさは変わらない。深い感動を呼んだ第二楽章のあと、自在に展開した第三楽章では美しいスケールやアルペジオ、煌びやかなトリルを存分に聴かせ、輝かしいばかりのフィナーレを迎えた。

第2部の「熱情」は、さらに激しく展開。美しいピアニッシモのパッセージを聴かせ、強力なフォルテッシモで会場を圧倒する。特に爆発力を秘めた第三楽章は凄まじく、エンディングに向けてエネルギーを増しながら駆け抜けた。

この日のアンコールはテンペストの第三楽章とパルティータ。テンペストはその所在な気な疾走感を漂させた演奏が素晴らしく、パルティータでは軽やかなタッチで魅了した。改めてブッフビンダーというピアニストの天才性を強く感じ、ファンタスティックでありながらエネルギッシュ、変幻自在な「ブッフビンダー・ワールド」を心ゆくまで堪能した。






<プログラム>

第1部
ピアノ・ソナタ 第8番 ハ短調 「悲愴」 作品13
ピアノ・ソナタ 第21番 ハ長調 「ワルトシュタイン」 作品53

第2部
ピアノ・ソナタ 第23番 ヘ短調 「熱情」 作品57

アンコール
ピアノ・ソナタ第17番ニ短調 「テンペスト」作品31-2 第3楽章(ベートーヴェン)
パルティータ第1番 BWV825 ジーグ(J.S.バッハ)





レポート:Asako Matsuzaka
写真提供:ジャパン・アーツ


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