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Concert Report



第21回別府アルゲリッチ音楽祭
日本生命Presents ピノキオ支援コンサート
アルゲリッチ ベートーヴェンを弾く ~ピノキオコンサート100回記念~


会場:東京オペラシティ
2019年5月24日



大きな感動に包まれた特別な瞬間
美しく精神性の高いベートーヴェン




5月24日、第21回別府アルゲリッチ音楽祭「日本生命Presents ピノキオ支援コンサート アルゲリッチ ベートーヴェンを弾く ~ピノキオコンサート100回記念~」が東京オペラシティにて開催された。別府アルゲリッチ音楽祭は、総監督であるマルタ・アルゲリッチの企画・指揮のもと、「育む」「アジア」「創造と発信」の3つの目的を掲げて開催されている。毎年、別府を拠点としてさまざまなプログラムが組まれているが、このプログラムは水戸室内管弦楽団との共同制作として指揮者に小澤征爾を迎え、東京エリアでの開催となった。


第1部のプログラムはハイドン「交響曲 第6番(指揮者なし)」より「朝」とウェーベルン「弦楽のための5つの楽章」。チェンバロを中心とした室内合奏形式で演奏されたハイドンでは、軽やかで心地よいアンサンブルを響かせる。そして第2部、マルタ・アルゲリッチと小澤征爾がステージに登場すると、観客は割れんばかりの拍手と歓声で迎えた。小澤の体調が心配され、指揮できるかどうか不明と言われていただけに、会場は安堵と喜びに包まれた。

この日、演奏されたのはベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番。冒頭からとてもクリアな、それでいて深みのあるオーケストラサウンドが響く。アルゲリッチのピアノはひたすらに美しく、軽やかなタッチで流麗なパッセージを奏でていく。ピアノとオーケストラの音の層が厚みと深みを増してふわっと膨らむような瞬間、この一瞬の感覚は筆舌に尽くしがたい。小澤は研ぎ澄まされた感性で精巧なベートーヴェンを構築していくようだ。とても精神性の高いベートーヴェンを堪能した。

これまで何度も体感してきたことで、筆者は勝手に「小澤マジック」と言っているのだが、小澤が登場するとオーケストラが変わる。ほぼ、どのオーケストラでも瞬間的にレベルを引き上げてしまう。若手中心のオケから世界的なオケまで、オーケストラのもつポテンシャルを瞬時に高めてしまうようだ。

大きな感動に包まれた二楽章では、ピアノの音色、一音一音の余韻を、快活な第三楽章では、生き生きと弾むオーケストラサウンドを楽しむ。三楽章でのアルゲリッチは小気味よくアクセントを付けながら楽し気にプレイ、高速パッセージで彩られたカデンツアはそれこそ鮮やかの一言で会場全体に煌めくような音色が広がった。ラストに向かってオーケストラを引っ張る小澤のアクションは鋭さを増していき、輝かしいフィニッシュを迎えた。

終わった瞬間、感動に満ちた大きな拍手に包まれ、いつまでも続くスタンディングオベーション応えて、アルゲリッチは「子どもの情景より 見知らぬ国と人々について」と「イギリス組曲 第3番より ガヴォット」を鮮やかに演奏。小澤とアルゲリッチは最後まで何度もステージに登場し、観客に応えていた。

この日のステージは上皇ご夫妻も鑑賞されており、ご夫妻が会場に入られると、会場から驚きと歓喜に満ちた大きな拍手が沸き起こった。ご夫妻は5分以上は続いたと思われるアンコールの間、他の観客と同じく立ち上がられ、一緒に拍手を贈られていた。 演奏者とご夫妻が退場された後、多くの観客が特別な瞬間に立ち会えた喜びを口にし、いつまでも感動的なステージの余韻が漂っていた。


<プログラム>

第1部(指揮者なし)
ハイドン:交響曲 第6番 ニ長調 Hob.I-6 〈朝〉
ウェーベルン:弦楽のための5つの楽章 作品5

第2部
ベートーヴェン:ピアノ協奏曲 第2番 変ロ長調 作品19
指揮:小澤征爾
ピアノ:マルタ・アルゲリッチ

【オーケストラ参加メンバー】(五十音順)

ヴァイオリン:安芸晶子、植村太郎、小栗まち絵、佐份利恭子、島田真千子、瀬川祥子、
双紙正哉、竹澤恭子、田中直子、豊嶋泰嗣、中村静香、三上 亮、依田真宣、渡辺實和子
ヴィオラ:川崎雅夫、川本嘉子、鈴木 学、店村眞積
チェロ:上村 昇、辻本 玲、原田禎夫、宮田 大
コントラバス:池松 宏、助川 龍
フルート:アルベルト・アクーニャ
オーボエ:アーメル・デスコット、南方総子
ファゴット:鹿野智子、マーク・ゴールドバーグ
ホルン:猶井正幸、ラデク・バボラーク
チェンバロ:小林万里子
ステージマネージャー:佐藤昌樹


レポート:Asako Matsuzaka
撮影:Rikimaru Hotta


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