<Home> <Info. from Artists>



LIVE REPORT

こまっちゃクレズマ
4th November 2004 at Star Pine's Cafe


Kiki Bandで世界をまたに活躍するサキソフォニスト梅津和時のクレズマ・バンド、「こまっちゃクレズマ」の哀愁のメロディーと乱舞のリズムが「ガラクタ通り」にこだまする・・・。






先ごろ東西ヨーロッパを歴訪し、各地で絶賛の嵐を呼んだ「Kiki Band」のメンバー二人(梅津和時、新井田耕造)を擁するクレズマバンド、「こまっちゃクレズマ」のライブである。クレズマは日本ではまだまだ馴染みのない音楽かもしれないが、ユダヤの祝祭音楽であり、冠婚葬祭には欠かせないもので、世界各地で盛んに演奏されている。基本的にダンス・ミュージックであるが、その音調は哀愁を帯びたものが多く、日本人の耳に親しみやすい。とはいってもこの「こまっちゃクレズマ」、クレズマの名の下にロマからバルカン、ロシア民謡、はては映画音楽まで様々な音楽を混ぜ込んで、もはや「こまっちゃサウンド」とでも呼ぶしかない独自の音楽に仕立て上げている。

今回はメンバーの一人、張紅陽が音楽を担当するオールCGのカルト・アニメ作品「ガラクタ通りのステイン」の映像と共にその世界にどっぷりと浸ろうという企画である。会場は吉祥寺の「スターパインズ・カフェ」。店内には「ガラクタ通り」のセットがしつらえられている。大画面に映し出される「ガラクタ通りのステイン」の可笑しくも切ないシュールな映像を楽しんだあと、演奏が始まる。

会場中ほどの壁際に陣取った「藤乃家舞」のパーカッションとエフェクトに彩られたベースが奏でるリズムに乗せて「こまっちゃクレズマ」の面々が楽器を鳴らしながらあちこちから登場し、藤乃家のまわりで彼のヴォーカルをサポートしてゆく。曲は藤之家の「YEN-KA」だ。このあたり、アートシネマの一場面のようでもある。

すると今度は「ガレージシャンソンショー」(以下「ガレシャン」)の登場である。襤褸傘を携えたボーカリスト山田晃士に一頃のジョニー・ライドンのようなスパイク・ヘアーのアコーディオン弾き佐藤芳明という異色のデュオだが、演劇的な演出となかなか聴かせる堂に入った演奏からするとこれは只者ではないようだ。シャンソンとポルカとミュゼットと昭和歌謡を混ぜてマルコム・マクラレンのプロデュースで尾崎紀世彦に吉本興行の舞台で歌わせた、とでもいえば幾らかでも近い雰囲気だろうか。

短いインターミッションを挟んで再び藤乃家のアンビエントな音響が響くと梅津のサックスとのアヴァンギャルドなデュオが始まる。これはジョン・ゾーンあたりのテイストに近いようだ。その間にステージでは「こまっちゃ」のメンバーがセッティングを進めている。電子音とファズベースの咆哮のなか、梅津が前方のステージへ向かうと演奏は「こまっちゃ」に引き渡され「ミザルー」が始まる。スローなトゥッティでミステリアスに始まり、関島岳郎のテューバのリフでいよいよ目くるめく「こまっちゃサウンド」の世界へ迷い込んでゆくという趣向だ。梅津はクラリネットに持ち替え、連綿としたメロディーを奏で、松井亜由美のバイオリン、そして胸に「恨」の字を刻んだパルバン(*)のいでたちの多田葉子のサックスをフィーチャーしてゆく。

(写真:左上 藤乃家舞、右上:山田晃士、佐藤芳明)

続いてはアップテンポなダンス曲「ア・ラ・ターク」。テューバの重低音で奏でる早いパッセージをフィーチャーしながら梅津のサックスが駆け巡る。ジプシー風のバイオリンのソロもスリルと同時に枯れた味わいを出している。多田のサックス・ソロは細やかな節回しが楽しい。新井田のドラムソロでは安定した鉄壁のリズムに速いスネアの連打が入り混じる軽快なもの。

続いてはスローなジプシー・ワルツとでもいった雰囲気の「満月の華」。だが実は7拍子のようだ。バイオリンと張紅陽のアコーディオンがストリング・アンサンブルの様に響くところが面白い。

多田のヴォーカルで始まるバラードの「シガニー・ヒムヌス」。映画「ラッチョ・ドローム」の中の1シーンで歌われていたジプシー曲だが、いつか聞いた唱歌のような懐かしさを覚える曲で、夕暮れ時に石焼芋の匂いをかぎながら砂利道を辿って家へ帰る時の感覚が思い起こされる。夕飯が待ち遠しくていつしか駆け足になったものだ。

  
関島岳郎
梅津和時
多田葉子

 

次は加速してゆく舞曲風の「グレート・ルーマニア」。バイオリンの速いソロに合わせてくるくると回る梅津と多田が見ていて楽しい。続くバイオリンの朗々としたソロも良い。すると今度は関島がバロック・フレーテの妙技を披露する。彼の参加する「栗コーダー・カルテット」をご存知の向きには嬉しい趣向。するとスライド・ホイッスルとソプラノ・リコーダーの二本吹きそして口琴と、「ガラクタ通り」にふさわしい奇妙な音が飛び出してくる。梅津も負けじとばかりにクルムホーンやゴムホースを取り出してひと吹き。そしてクラリネットの開口部を取り外して口にあて、ドナルドダックのわめき声のような珍妙な音を出してみせる。

マーチング・ドラムの音とバイオリンのエレガントな音に導かれて始まる次の曲は、スウェーデンのギターバンド「スプートニクス」からマンボの帝王「ペレス・プラード」、はては現代クラシック界の立役者「アンドレ・リュー」までが演奏していることで耳に馴染みの「ハバ・ナギラ」である。運動会の行進曲にもぴったりだが諸所にちりばめられたキメのブレイクに足をとられて転んでしまうかもしれない危うさが面白みといえよう。張、多田、梅津とソロを取り回してゆく間、バックの関島と新井田が淡々とビートを刻んでいるのがまた面白い。

  
新井田耕造
松井亜由美
張紅陽

ステージにスクリーンが降ろされ、「ステイン」のテーマを「こまっちゃ」が演奏する。ロボット化したカセット・レコーダーに踊り続けることを強要されて困り果てるステインとパルバンを描いたエピソード「Cassette」に生のサウンド・トラックをつけようというわけだ。疲れ果てても踊らねばならない二人の困惑をコミカルに描いた画面にあわせて効果音まで楽器で再現する「こまっちゃ」の演奏に会場は大喜びだ。めいな Co. の浦山秀彦 もギターで参加して華を添えた。

なにやらハンドメガホンでわめきたてながら「ガレシャン」がステージへと向かう。「こまっちゃ」と「ガレシャン」のスペシャル・コラボレーションだ。一度引っ込んだ梅津が燕尾服に山高帽で登場すると会場は大喝采。「ツンバララ、ツンバララ、ツンバーラライカ」と歌うユダヤのラブ・ソング「ツンバラライカ」は会場のコーラスも加わって盛大な盛りあがりだ。

山田のカウントで「ガレシャン」の曲「サーカス サーカス」が賑々しく始まると会場のファンが手拍子で応じる。張と佐藤のアコーディオン・バトルは特筆すべき楽しさだ。狂喜乱舞のスペクタクル・ショー、見もの、聞きもの、歌舞伎もの、といった有様で盛り上がった。

続く曲は、これも「ガレシャン」の曲でミディアム・テンポのシャンソンといった感じだが、山田の達者なショーマンぶりが際立つ。この曲はタイトル未定の新曲とのこと、ライブに来た人だけのボーナスともいえよう。

最後はメンバー紹介に続いて関島の曲「コンノートのくつみがき」である。藤乃家、ギターの浦山 、美術担当の金丸賀也、「ガラクタ」の監督の増田龍治もステージに上がって全員でスクリーンに映し出される「ガラクタ」のキャラクターとともに会場総立ちの盛大なダンス・パーティーといった有様だ。

アンコールの拍手に応えて藤乃家、浦山、「ガレシャン」に「こまっちゃ」の面々が会場を練り歩きながら「Ale Brider」の演奏で登場。これまた会場総立ちの大宴会状態で熱気の立ち上るなか幕を閉じた「ガラクタ通り」の一夜であった。

先日の「Kiki Band」といい、今回の「こまっちゃクレズマ」といい、曲が何拍子だとかなんだとかといったところから離れた、純粋にノリの良い楽しい音楽を聴かせてくれた梅津和時と仲間達。それぞれが卓越した音楽家であるからこそバンド全体がグルーヴしているのだろう。哀しいような、嬉しいような、懐かしいような、そして新しい感覚で聴くものを躍らせてしまう手腕にはもはや脱帽して踊るしかない。


注(*):パルバンとは「ガラクタ通りのステイン」に登場する巨大な直立猫で、ガラクタ通りの住人のステイン同様いつも腹を空かせている。わがままな奴だが憎めない。

Musicians:
ガレージシャンソンショー:
山田晃士 (Vo, Gtr, Perc)
佐藤芳明 (Acc, Perc)

藤乃家舞 (Vo, Bs, Perc, Electronics)

こまっちゃクレズマ:
梅津和時 (Sax,Cl) http://www.j-music.com/umezu/j/
多田葉子(Sax)
松井亜由美 (Vl)
張紅陽 (Acc)
関島岳郎 (Tuba)
新井田耕造 (Ds)


< Set List >

オープニング: 藤乃家 舞(vo)+こまっちゃクレズマ
YEN-KA

ガレージシャンソンショー
1 水無月のマリオネット
2 いざ進めよ、いばらの道を
3 「タイトル未定(新曲)」
4 「タイトル未定(新曲)」
5 デカダンス マンボ
6 アラバマ・ソング

こまっちゃクレズマ
1 ミザルー
2 ア・ラ・ターク
3 満月の華
4 シガニー・ヒムヌス
5 グレートさんのローマンス
6 ハバ・ナギラ

こまっちゃクレズマ+ガレージシャンソンショー
1. ツンバラライカ
2. サーカス サーカス
3. 「タイトル未定(新曲)」

フィナーレ
4. コンノートのくつみがき

アンコール
 ALE BRIDER

Report by Tatsuro Ueda
Photograpy by Yoko Ueda
Design by Asako Matsuzaka
Special Thanks to Yoko Tada, Star Pine's Cafe

Copyright (C) 2004 Global Artist Network. All rights reserved.