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LIVE REPORT

Ivan Lins and João Bosco
8 May 2003 - 2nd Stage at Blue Note Tokyo at Blue Note Tokyo



ブラジリアン・コンテンポラリー・ミュージック・シーンの今を作り、そしてリードしつづける
2人が贈る、豪華で、そして心に染みる夜



ブラジルには世界的に認められた革新的ミュージシャンが少なくない。もともとは若者の歌う民謡をボサノヴァとして大人が聴くための音楽として成立させたジョアン・ジルベルト、そしてそれを芸術の域にまで高めたアントニオ・カルロス・ジョビン。民族的アプローチとコンテンポラリー・ジャズを融合させたエグベルト・ジスモンチやナナ・ヴァスコンセロス、クラシックのテーマを都会的フュージョンに導入して成功を収めたエウミール・デオダートなど枚挙に暇がない。その中でも特に高い評価と人気を誇るのが今回のライブに登場するイヴァン・リンスとジョアン・ボスコである。

今回のライブは二つのアーティストがそれぞれのバンドを引き連れて行うもので、そのための機材がブルーノートのステージいっぱいに並べられている。会場は連休後の平日にもかかわわらず熱心なファンで埋まっている。

ジョアン・ボスコといえばアフロ・スタイルの代表的シンガーソング・ライターであり、本国ブラジルのみならずヨーロッパ、北米や日本でも高い人気を保っている。ブラジリアン・リズムといえばサンバがすぐに思い出されるが、本国でのサンバはゆったりとした午後の日差しやあるいは日々の歓びや悲しみを歌い紡ぐためのリズムとして使われる。

会場の灯りが落とされると、客席後部からクラシックギターを片手に身軽ないでたちのジョアン・ボスコが現れる。ギターのネックとボディーのジョイント部を左手でわしづかみにした姿は70年代のヒッピーをも連想させる飄々とした雰囲気だが、ステージ中央のスツールに腰を落ち着けて歌い出すとさすがに年季を感じさせる、一聴して彼のものとわかる説得力のある歌声が流れ出す。

1曲目の"Nação"で聴かせる速いリズムでのギタープレイや、続く"Terreiro de Jesus"での低音弦でリズムをとりながら、目まぐるしく変化するコードをさりげなく奏でるギターテクニックは見事である。また、次の" Coisa Feita"ではナナ・ヴァスコンセロス当たりに通じる土臭い雰囲気を醸し出すなど、表現力の豊かさには感朊させられる。

初め3曲を一人で弾き語りを聴かせたのち、セカンドギターとベースを迎えてのトリオの演奏へと移る。あくまでもジョアンのギターと歌を中心にバックがアンサンブルを展開する。"Desenho de Giz"で見せるセカンドギターとベースそれぞれのソロも、ツボを心得た音の粒立ちの良い演奏で、技量の高さとジョアンの曲への理解の深さを感じさせる。

次の" Senhoras Do Amazonas"は7thコードを多用したジャジーなナンバーで、ネルソン・ファリーアのギターソロがなかなかの聞かせどころである。"Moral da História"ではブラジルの、これも革新的クラシック作曲家・ギタリストであったヘイトール・ビラ=ロボスを彷彿とさせるようなギターソロに導かれて展開する素晴らしい長編詩を披露してくれたが、そこで聴くボーカルとギターのユニゾンや的確なリズムで曲にスピード感を与えるベースラインなどは、曲の構成の良さと相まってトリオとは思えないほどのスケール感をもって会場を魅了した。

そして"Quilombo", "Tiro de Misericórdia", "Escadas da Penha"が続けて演奏された。2つのギターのアンサンブルが興味深い展開を見せる。リラックスした歌は次第に熱を帯びて、ギターソロ・パートへつなげるのだがそのハーモニーの組み立ての妙に舌を巻かざるを得ない。また、"Escadas da Penha"では速いパッセージを弾き重ねるスタイルは軽快な印象の中、音数の多いベースソロがパーカッシブに決めてくれる。

最後の曲、"Chege de Saudade"ではイヴァン・リンスを迎えて二人のデュエットを聴かせてくれた。イヴァンが口真似でトロンボーンのメロディーを歌うなど、洒落っ気たっぷりであるが、曲のリズムが巧みに変化してゆき、次第にスピードを上げて行くように聴かせるのはさすがである。

そして歓声の中、イヴァン・リンスを残してステージを後にするジョアン・ボスコとファリーア、ベース、コンセイサゥンの3人。

今度はイヴァン・リンス・バンドがステージへと向かう。イヴァン・リンスのキーボードソロに合わせてバンド・メンバーがステージに登場する演出はさすがにアメリカン・ショービジネスのスポットを浴びた彼らしい。

バンドが揃うと、いかにもブラジリアン・コンテンポラリー・ミュージックと言った感じのボーカル・ハーモニーを聴かせ、そしてMIDIピックアップ(GK-2)をとりつけたギターが流麗なソロを披露する。前のステージとは対照的な都会的センスのジャズ・ポップスが繰り広げられる。
今回のバンドにはギタリストが二人入っている。レオナルド・アムエドはパット・メセニーを彷彿とさせる技巧的ジャズ・ラインを担当し、ゼー・カルロスは伝統的ブラジル音楽の流れをアコースティックギターとカヴァキーニョで奏でている。どちらもテクニック、表現ともに申し分のないプレイヤーで、音楽の楽しさを充分に引き出している。そしてここでもブラジル音楽の要であるサンバのリズムは健在。

1曲目"Depois Dos Temporais"に続いて"Meu Pais"が始まる。ゼー・カルロスのアコースティック・ギターの繊細な響きを大切にするがためにバンド全体がダイナミクスを変えてくる。美しいギターの音が次第に強さを増していき、フルバンドのオーケストレーションへと展開する様は見事。

次は新アルバムから故郷リオ・デ・ジャネイロの街を歌った"Lua do Arpoador"。緩やかなリズムに乗せて歌われる言葉の響きが面白い。ハモンド風の音で奏でられるブルージーなオルガンサウンドがレイド・バックな雰囲気を出している。そして"Samba do Aviao"ではレオナルド・アムエドがGK-2を搭載したエレクトリックギターで弾くパット・メセニーを彷彿とさせるソロが聴きどころ。続く"Ex-Amor"ではところどころにデオダート的、あるいはカルロス・ジョビン的な展開を見せる。

6曲目にはこれも新アルバムから"É de Deus"。ストリングスをバックに歌うスローなサンバだが、ゼー・カルロスの弾くカヴァキーニョという、チャランゴに似た形の8弦の小型スティール弦ギターの音が瑞々しい印象を与えている。

そして"Vivo Sonhando"に続けて"Triste"では都会的なサンバのリズムへと移る。イヴァン・リンスのピアノソロに続いて各楽器のソロをフィーチャーして行き、そしてまたイヴァン・リンスのキーボード・ソロへ戻る。バンドメンバーに目を配りながら、ステージの上でアレンジして行くかのような即興性は、デイブ・グルーシンやリー・リトナーなどの大物と渡り合った辣腕アレンジャーぶりを存分に見せつける演奏であった。

最後にジョアン・ボスコと彼のバックバンドも一緒にステージに上がる。総勢9人のミュージシャンでステージが埋め尽くされると、これは壮観である。イヴァン・リンスはアコースティック・ギターに持ち替え、ジョアン・ボスコと交互にボーカルをとる。何と言う豪華なステージであろうか。

この"Milagre"で「二大スター夢の競演《というべきステージも大団円を迎えたわけだが、イヴァン・リンスならではの洗練された、緻密なでありながら複雑さを感じさせない構成を展開してゆく様は本当に気持ちよく、時にリオ・デ・ジャネイロの雑踏を思わせ、また時には白い建物が海の青に照り映えるコパカバーナ・ビーチが目の前に広がるような爽快な演奏だった。

ところでジョアン・ボスコもそうだが、イヴァン・リンスには祖国ブラジルを歌った曲が多い。今回のセットでも、そうした曲を聴かせてくれたが、やはり"Meu País"(我が祖国)などの吊曲となると本人の力が入るのもはもちろん、日本人で一杯の会場も一層熱が入るあたり、まさに「音楽に国境なし《と思わせる。

イヴァン・リンスはこれまでにも何度か来日しているが、本人によると大変な日本びいきだそうで、「もし日本に住めるならばぜひそうしたい、そして自分のラジオ局を持ちたい《ということである。彼にとってラジオという存在は特別な思いがあり、いつもラジオメディアは大切にしているとのこと。ブラジルの音楽的、経済的発展の中心で常に活動してきた彼らしいコメントではないかと思う。


Musicians:
イバン・リンス(ボーカル、キーボード)
テオ・リナ(ドラムス)
レオナルド・アムエド(ギター)
マルコ・ブリート(キーボード)
ネマ・アントゥネス(ベース)
ゼー・カルロス(ギター)
ジョアン・ボスコ(ボーカル・ギター)
ネルソン・ファリーア(ギター)
ネル・コンセイサゥン(ベース)

SET LIST:

João Bosco
1. Nação
2. Terreiro de Jesus
3. Coisa Feita
4. Desenho de Giz
5. Senhoras Do Amazonas
6. Moral da História
7. Quilombo / Tiro de Misericórdia / Escadas da Penha
8. Chege de Saudade (Session with Ivan Lins)

Ivan Lins:
9. Depois Dos Temporais
10. Meu País
11. Lua do Arpoador
12. Samba do Aviao
13. Ex-Amor
14. É de Deus
15. Vivo Sonhando / Triste

João Bosco & Ivan Lins
16. Milagre (Session)

Report by Tatsuro Ueda
Edit by Asako Matsuzaka
Many thanks to
Blue Note Tokyo

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